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東京高等裁判所 昭和48年(ネ)192号 判決

控訴人(原告) 株式会社藤井製作所

被控訴人(被告) 株式会社阪急百貨店

原審 東京地方昭和四七年(ワ)第二七三二号(昭和四八年一月一七日判決)

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

一  控訴人訴訟代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人は控訴人に対し、金四八〇万円およびこれに対する昭和四七年四月一五日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言を求め、被控訴人訴訟代理人は、主文同旨の判決を求めた。

二  当審における当事者双方の主張および証拠は、次の事項を付加するほかは、原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。

(一)  控訴人の主張

1  被控訴人は、各取引先玩具業者より玩具を納入し、その玩具を玩具売場において陳列、販売しており、このような販売形態をとるのが被控訴人の業務である。被控訴人は玩具の販売を促進させるために原判決別紙目録記載(1)から(5)までの表示を原判決認定の態様で使用しているのであるから、その使用は、まさに、被控訴人の業務のために被控訴人の業務にかかわるものであることを表示するものである。

2  被控訴人が、たんに、その玩具売場自体を指示するためのみであるならば、原判決認定のごとき使用態様で売場を指示しなくとも、他の方法によつてその目的を達することが可能である。それにもかかわらず、あえて、原判決認定の使用態様で原判決別紙目録記載(1)から(5)までの表示を使用することは、被控訴人が、その取扱い販売する玩具についての広告機能を重視するからにほかならない。したがつて、原判決認定のごとき使用態様で原判決別紙目録記載(1)から(5)までの表示を使用することは、たんなる売場自体の表示ではない。

(二)  被控訴人の主張

被控訴人の使用した原判決別紙目録記載の各表示は、いずれも、商品を前提とし、根基とする商標の本質的機能である自他商品の識別機能、商品の出所表示機能および商品の品質保証機能を果しているものではなく、売場施設を指示するためにのみ用いられているから、商標の使用にあたらない。

理由

一、当裁判所も、原審と同様に、控訴人の本訴請求は失当であると判断する。その理由は、左記のとおり訂正するほかは、原判決の理由に記載するとおりであるから、これを引用する。

原判決一一枚目裏六行目(編注、本書二五八頁一九行目)「もつとも、」から理由末尾までを、次のとおり改める。

「もつとも、前認定のごとく、原判決別紙目録記載(1)の表示がなされた模型建物の内部には、玩具の箱が陳列され、また店舗内数箇所に設けられた案内板には、原判決別紙目録記載(1)、(4)および(5)の表示とならんで玩具・人形または玩具・人形・その他の文字が記載されているのであるから、これらの表示は、被控訴人の販売する玩具・人形等に関してなされたものといつても差支えない。しかしながら、これらの表示を含めて原判決別紙目録記載(1)から(5)までの表示は、さきに認定したその使用の態様から判断すれば、単に被控訴人店舗内において玩具の売場を案内、指示するためにのみ用いられたものと認めるべきであつて、商品に関する広告その他商標の使用にはあたらないと解するのが相当である。」

二、してみれば、控訴人の本訴請求は、その余の点につき判断するまでもなく失当であるから、これを棄却した原判決は相当であつて、本件控訴は理由がない。

よつて、本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 古関敏正 瀧川叡一 宇野栄一郎)

原審判決の主文、事実及び理由

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一当事者双方の申立

一 原告

1 被告は、原告に対し、金四八〇万円およびこれに対する昭和四七年四月一五日から支払ずみまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

2 訴訟費用は、被告の負担とする。

との判決および第一項につき仮執行の宣言を求める。

二 被告

主文と同趣旨の判決を求める。

第二原告の請求の原因

一 原告の商標権

原告は、次の商標権の権利者である。

(一) 登録番号 第四二五、九九九号

登録商標 別紙商標公報(甲)のとおり

指定商品 旧六五類玩具および運動遊戯具

出願日  昭和二四年七月四日

公告日  昭和二七年一二月二二日(商標出願公告昭和二七年第一六、七五四号)

登録日  昭和二八年五月二七日

(二) 登録番号 第五六一、四九九号

登録商標 別紙商標公報(乙)のとおり

指定商品 旧六五類玩具

出願日  昭和三四年四月七日

公告日  昭和三五年二月三日(商標出願公告昭和三五年第二、四三八号)

登録日  昭和三五年一二月一〇日

二 登録商標の構成

(一) 登録商標甲は、別添商標公報(甲)のとおり、「TOYLAND」と横書きし、その下「O」と「N」との間に位置するように「トイランド」の文字を横書き併記してなる文字商標である。

(二) 登録商標乙は、別添商標公報(乙)のとおり、「おもちやの国」の文字を左から右に横書きし、その下で前記文字の「も」と「の」の間に位置するように「TOYLAND」の文字を横に併記してなる文字商標である。

三 被告の標章

(一) 被告は、昭和四二年一〇月ころから昭和四六年一〇月三一日ころまでの間、被告店舗内において、次のような各標章を使用した。

(二) 被告店舗の七階から八階(玩具売場)に至る階段附近の左右両側に家形の玩具広告場(横約二メートル、縦約三メートル)を設け、その中に玩具の箱を陳列し、その正面下段部分に別紙目録記載(1)の標章を表示し、店舗内数か所に「店内各階ご案内」板なるものを設け、同板の八階案内記事中「玩具・人形」と表示した部分の下に右と同じ標章を表示し、

(三) 被告店舗の七階から八階(玩具売場)に至るエスカレーターの上部に、青・緑・黄・赤の各色を配したアーチ形トンネルを設置し、そのトンネルの天井から吊り下げた看板に別紙目録(2)の標章を表示し、

(四) 八階玩具売場内に等身大の楕円形をした立看板を設け、これに別紙目録記載(3)の標章を表示し、

(五) 八階玩具売場内に天井から吊り下げた看板に別紙目録記載(4)の標章を表示し、店舗内数か所に「8階店内ご案内」に板なるものを設け、同板の左側上部の「玩具・人形」の表示部分に右と同じ標章を表示し、

(六) 店舗内数か所に「玩具・人形・プラモデル・模型・ゲーム用品・お子様のりもの・タカラヅカコーナー」の文字を記載した店内広告板を設け、その広告板の上部に別紙目録記載(5)の標章を表示した。

(七) 以上のように、被告は、前記各標章を商品玩具のイメージアツプとして広告用に使用したものである。すなわち、「TOYLAND」「おもちやの国」の表示は、多数のおもちやが、ある遠方の幻想的な国からはるばるこの売場にやつて来たものであるとの印象を子供らに抱かせる機能をもつているものであつて、前記使用の態様とくに前記(二)、(三)の態様によつて、顧客に対し、幻想的な「おもちやの国」が眼前に開けてくるような錯覚を起こさせることを意図し、玩具の広告用に使用したものである。

四 本件各登録商標と被告の商標との対比

被告の標章は、いずれも本件各登録商標と類似する。被告の別紙目録記載(4)、(5)の標章は、「阪急」の文字が附加されてはいるが、これらは、いずれも本件登録商標乙と外観が類似するものというべきであるから、類似性を否定できない。

五 被告の不法行為と原告の損害

(一) 被告は、前記のとおり昭和四二年一〇月から同四六年一〇月三一日までの間、原告の本件各登録商標に類似する別目録記載(1)から(5)までの標章を少なくとも過失により使用して、原告の本件各商標権を侵害した。

(二) 原告は、本件各商標権につき他人に使用権を許諾するとすれば通常受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を得られるところ、その使用料相当の額は、本件二商標権で一か月金一〇万円が相当であるから、原告は、被告の前記侵害行為によつて合計金四八〇万円の使用料相当の損害を被つた。

六 請求

よつて、原告は、被告に対し、前記金四八〇万円およびこれに対する不法行為の後である昭和四七年四月一五日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三被告の答弁

一1 請求原因一の項の事実は認める。

2 同二の項の事実は認める。

3 同三の項(一)の事実のうち、被告が別紙目録記載の各表示を被告の店舗内で使用したことは認めるが、使用をはじめた時期は、昭和四四年九月ころである。

同三の項(二)のうち、原告主張の階段附近の一側に原告主張の横約二メートル、縦約三メートルの家形の物件を設けてその正面に別紙目録記載(1)の表示をし、店舗内数か所に設けた案内板に原告主張のように右同表示をしたことは認めるが、その余の事実は否認する。

同(三)のうち、「看板」の表現を除き認めるが、これは案内板であり、標章を付して使用したものではない。

同(四)のうち、「立看板」の表現を除き認めるが、これも案内板であり、標章を付して使用したものではない。

同(五)のうち「看板」の表現を除き認めるが、これも案内板であり、標章を付して使用したものではない。「8階店内ご案内」板の表示は、左側上部の「外商部」の縦書文字とその左側の「玩具・人形」の横書文字とほぼコ字状を形成するように「阪急おもちやの国」(別紙目録記載(4))の文字を「玩具・人形」の文字の上部に横書きにして表示したもので、売場の案内表示にすぎない。

同(六)のうち、「店内広告板」の表現を除き認めるが、別紙目録記載(5)の表示は、店内案内のためにしたものであり、標章を付して使用したものではない。

同(七)は否認する。

4 請求原因四の項のうち、別紙目録記載(4)、(5)の表示は、本件各登録商標と類似しない。

5 同五の項(一)のうち、被告が店内において別紙目録記載(1)から(5)までの表示を使用したことは認めるが、その余の事実は否認する。

同(二)は否認する。

二 被告の使用した表示は、商標の使用にはあたらない。

(一) 商標は、商品の出所を表示し、商品の品質を表示する機能をもつものであつて、この二機能を有するが故に、商標は、当該商品を消費者、取引者に記憶されて広告作用を伴うことになるのである。

しかるに、被告の使用した別紙目録記載の各表示は、もつぱら店内の売場を案内する機能しかなく、いわゆる出所表示機能も品質保証機能も果していないから、商品玩具の広告用として使用したものとは、いいえない。

(二)また、商標の使用とは、標章をその商品との具体的関係で使用することをいうのであつて、被告の使用態様は、その商品玩具との具体的関係で使用されたものでなく、このことは、その売場案内の表示にすぎないことから明らかである。

第四証拠関係〈省略〉

理由

一 請求原因一、二の項の事実は、当事者間に争いがない。

二 被告が、被告店舗内において別紙目録記載(1)から(5)までの各表示を使用したことは、当事者間に争いがない。

そこで、被告の右各表示の使用が、商標の使用にあたるかどうかについて検討する。

昭和四六年一〇月一五日に被告の店内を撮影した写真であることにつき当事者間に争いのない甲第五号証の一から八まで、証人渋谷英機の証言、原告会社代表者本人尋問の結果および本件口頭弁論の全趣旨を総合すると、被告会社は、昭和四四年九月ころ、それまで六階にあつた玩具売場を八階に移し(この時期以後は、八階には玩具売場のほかに外商部があるだけであつた。)てから、玩具専門の売場を表示するために、別紙目録記載(1)から(5)までの表示を、次に認定する態様で使用したこと、その使用の態様は、昭和四四年九月ころから昭和四六年二月ころまでの間、おとぎの国を想起させるような建物の模型を七階から八階に通じる階段の左側に設けて、その内部に玩具の箱を陳列し、その裾板前面に別紙目録記載(1)の表示をし、昭和四四年九月から昭和四六年一〇月までの間店舗内数箇所に、「店内ご案内」と表示した案内板を設け、各階の断面表示中八階部分の右寄りに「玩具・人形」と横書きし、その文字の下に別紙目録記載(1)の表示を「玩具・人形」の文字よりも小さく表示し、(二)昭和四六年五月ころから昭和四六年一〇月ころまでの間、七階から八階に至るエスカレーターの上、八階部分にアーチ形をした赤・青・黄・緑等の彩色板を並べてアーチ形トンネルを形成し、その屋根部分から別紙目録記載(2)の表示をしたほぼ楕円形状の板を吊り下げ、(三)昭和四五年六月ころから昭和四六年一〇月ころまでの間、八階の玩具売場内に等身大の楕円形の板を立てて、これに別紙目録記載(3)の表示をし、昭和四四年九月ころから昭和四六年一〇月ころまでの間、八階玩具売場内の天井から吊り下げた横に長い彩色板に別紙目録記載(4)の表示をし、(五)同じ期間、「8階店内ご案内」と横書きした案内板の左上部に、別紙目録記載(4)の表示をし、この案内板には、客の現在位置を指示してあるほか、前記表示部の下部にその文字よりもやや大きい文字で「玩具・人形」と横書きで記載し、これとほぼ同じ大きさの「外商部」の文字をこれらの右側に縦に記載し、これら三者の文字でコ字状を形成するように表示し、(六)前記同期間、店舗内数箇所に、ほぼ正方形の隅とりの枠をあらわした中に、上部に、別紙目録記載(5)の文字を表示し、その下に「玩具・人形」「プラモデル」「模型」「ゲーム用品」「お子様のりもの」「タカラヅカコーナー」と上から下に順次横書きに記載し、右枠外右下に「外商部」と表示しその最下部左寄りに「8階西館」と横書にし、その右側にそれらの位置を指示する右向きの赤い矢印をあらわした案内板およびこの案内板のうち「外商部」の表示を欠き、しかも、前記枠外の下部に表示された「8階西館」の文字を、枠内の最下部右寄りに記載し、その左側に└の赤い矢印を併記した案内板をそれぞれ設けたものであることが認められる。

ところで、「おもちやの国」「TOYLAND」は、いずれも幻想のおもちやばかりの国を想起させる観念をもつものであることに加え、前記認定のエスカレーターで昇つて来る客に対し、彩色されたアーチ形トンネルを通つておとぎのおもちやの国に入るような感じ印象を抱かせようとしたものであること、また、エスカレーターを通らず階段を利用する客に対しても、前記各案内板と七階から八階に至る階段の左側に設けられたおとぎの国を想起させる建物の模型と前記表示とによつて、前記同様のイメージを抱き、玩具売場内に設けられた前記(三)、(四)認定の表示板と売場に陳列された玩具等によつて、おもちやの国に着いたような印象を抱かせようとしたものであることが推認される。もつとも、前認定(一)の模型建物の中には玩具の箱が陳列されており、また、前認定(五)、(六)の案内板には別紙目録記載(5)の表示のほかに玩具・人形または玩具・人形その他の表示があり、一般的にはひろく商品玩具との関連において右表示等が用いられているものということはできるであろうが、被告の別紙目録記載(1)から(5)までの表示は、その前認定の使用の態様判断からすれば、いずれも一種または複数種の特定の商品について、それが定まつた何人かの業務、本件においては被告の業務にかかるものであることを表示するものとは断じえないところであり、単に玩具の売場自体を指示するためにのみ用いられているものと認められるから、商標の使用にはあたらないものというほかはない。

三 よつて、原告の本訴請求は、その余の点につき判断するまでもなく、理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(別  紙)

特許庁

商標公報

商標出願公告 昭27―16754

公告 昭27.12.22 出願 昭24.7.4

商願 昭24―11879

連合商標登録番号{377006、387560、387581、387562、387584、387566

連合商標願書番号{昭23―18330、昭24―3141

指定商品 65 玩具及び運動遊戯具

出願人 株式会社藤井製作所 東京都荒川区日暮里町7の712

代理人弁護士 板橋清吉

特許庁

商標公報

商標出願公告 35―2438

公告 昭35.2.2 出願 昭34.4.7

商願 昭34―10537

連合商標登録番号{377006、387560、387561、387562、387566、419291、425516、425999

連合商標願書番号 昭34―10740

指定商品 65 玩具

出願人 株式会社 藤井製作所 東京都荒川区日暮里町7の712

代理人 弁理士 大竹進

(別紙目録)

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